
23 3月 【中卒、元兵士だった小学校教師の幸せ】
アッサラームアライクム!Piece of Syriaの中野貴行です。
今日は2009年3月に、僕が書いた文章をお届けします。
戦争前のシリアの教育事情や先生達の心情を知っていただけるかと思います。
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村の学校のシステム
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思い出話、というのは美化されるものなのかもしれない。
「あの頃はよかった」「俺の若い頃は」と。
しかし、男は巻きタバコの煙を燻らせながら、目じりに皺を寄せて言う。
「昔は子どもがたくさん死んでいた。学校に行けなかった。
だが、 今は違う。子どもは滅多に死ななくなったし、
ほとんどの子どもが読み書きを出来るんだ」
彼の名前はハルフ。A村の学校で教鞭をとる50歳だ。
A村は人口3千人程度の小さな村だが、周辺の村々から子ども達が集まる場所でもある。
それは、予防接種を受けるための保健センターがあることに加え、中学・高校があるからだ。
小さな村でも小学校があるのが今のシリアでよく見られることだが、中学・高校はやや大きな村に限られる。
そのため、A村には周辺の村々から子ども達が集まる。
とはいっても、小中高の学校の建物が分かれているわけではなく、
午前中に小学校の授業、午後に中高の授業がある、といった二部制である
(ただし、週交代で午前と午後は入れ替わる。つまり、午前に授業があった翌週は午後に授業があるのだ)。
朝は 7時半から始まり、午前の部も午後の部も 6 コマだ。
夏の間は 45 分授業で、 冬は 40 分授業に短縮される。
お昼ご飯に給食が出ることはなく、それぞれ家に帰るのだが、
学校の近くに雑貨屋さんがあり、そこでチップスやビスケット、ビズル(ヒマワリやかぼちゃの種)などの
お菓子を買って小腹を満たす子ども達も多い。
15 分の休憩時間になると、親から貰った 5SP(約 10 円)を持って雑貨屋になだれ込む。
学校の正面にある文房具屋さん。スナック菓子をフェンス越しに売るときも。
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兵士から先生へ
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ハルフ先生は、小学校で教えている。
しかし、15 歳の時の彼は高校に進まなかった。
貧しさのあまり働くしかなかったからだ。
隣国レバノンの首都ベイルートに行き、肉体労働をした。
その頃に結婚。そして 1971 年、最初の兵役へ(シリアでは徴兵制があり、2009年当時は1年9ヶ月間だった)。
彼は今まで4回の兵役、計5年間を兵士として過ごしており、
その間にイスラエルの飛行機を大砲で撃ち落としたこともある、と誇らしげに語る。
兵士時代の写真を見せてもらった
教師の資格を取ったのは25歳だった。
どこかの学校に通うことなく、仕事のすき間時間を使って、3年間かけて高卒の資格を得た。
「村で初めての高卒資格だったんだぞ」と黒く焼けた男は微笑む。
シリアでは高卒資格があれば小学校で教壇に立つことができるようで、
彼も先生として、村の学校で働くようになった。
また、彼は女性の識字教室の講師として働いていたこともある。
女性に読み書きを教える夜間学校で、2年間通えば、小学校卒業の資格も得られる。
村人から選ばれる講師にはシリア政府から月1000SPの給料が渡される仕組みだ。
識字教室を開く条件は15人の女性の応募者が集まること。建物は村の学校の教室を使う。
シリアは1970年の独立以降、学校・道・電気・文化センターなど生活インフラを整えて生活を改善させてきたが、
そうした姿勢はこのようなシステムにも見られる。
識字教室の様子。積極的に学ぶ村の女性達
どうして先生になろうと思ったのか。
尋ねると、子どものころからの夢だったんだ、という答えが返ってきた。
「それに年下の従兄弟のアフマドが先生だしね。悔しいじゃないか」と。
薄い紙に煙草の葉を包み、丸めた紙を唾で湿らせて、巻きタバコを作る。
火をつけ、煙を吸い込む。少し、咳き込む。
僕を見て、つぶやく。
「先生になって良かったって思うのは、
子どもが読み書きできるようになっていく、
その成長を見るのが幸せだからだよ」
授業の無い日は、野菜を育て、ウサギや鳥を狩り、湖に行って魚を獲る。
趣味と実益を兼ねた充実の毎日。
そして、今日も、未来を創る子ども達を前に、学ぶ喜びを伝えるため、彼は教壇に立つ。
(2009年3月)
今も、彼のような熱意を持った先生達が、「子ども達が未来だから」と、
高騰する物価の中で、給料がないままに働いている地域があります。
子ども一人の教育支援が、一ヶ月1000円で可能です。
是非、ご検討いただければ幸いです。
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