みなさん、こんにちは。
Piece of Syriaの中野貴行です。
前回の記事「誰と話すかで、シリアの見え方は異なる」に続いて、シリアの人たちの思いについて共有します。
この記事では「シリアに帰る人たち、帰りたいけど悩む人たち、帰りたくない人たちの事情」についてお伝えします。
ニュースでは、シリアに帰る人たちのニュースも流れていますが「トルコやヨルダンからシリアに戻るシリア難民の数は比較的少ない」(UNHCR 地域速報 #3・2024 年 12 月 13 日) とされていて、僕の周りでも、シリアに戻っているケースは今のところ聞いていません。(上のUNHCRさんの記事では、レバノン・イラクに向かったシリア人が増えた、ということも書かれています)
僕が伺った「悩む理由・帰る理由」について、事情が異なる ①出身地 ②ステータス ③経済状況 ④民族・宗派 ⑤時期 のそれぞれの観点でお伝えします。
トルコに住むDさんは「出身地がどこか、というのも大きいよ」と話します。
シリア北西部(イドリブ・アレッポ郊外)は、元々「反体制派」が支配していた地域。私たちが支援を続けていた幼稚園があるのもこの辺りですが、当団体の現地スタッフも「今は全くの安全だよ」と話しています。
一方、シリア北東部は、アメリカの支援を受けるクルド人主体の反体制武装組織「シリア民主軍(SDF)」が占領しています。この地域の状況は非常に不安定で、戦闘が報告されています(OCHA、2024年12月16日)。
なので、北西部アレッポ出身の人は帰国する動きがある一方、北東部のラッカ・ハッサケ出身の人は躊躇している、と伺いました。
ただ、デリゾールは安定して「支援活動も兼ねて、家族に会いに行こうかと思ってる」と話す友人もいました。
難民となることを希望し、トルコに避難した人たちが、トルコに住み続けるには「Kimlik」という「一時的在住許可ID」を取得する必要があります。Kimlikがあれば、教育や医療を受けることができます。
ただ、Kimlikは県ごとの登録となり、県を跨いでの移動には許可が必要という制限や、働くために労働許可が別途必要となります(労働許可については、時期によって厳密さが変わっている印象です。昨今、厳しくなっています)。
Kimlikは「一時的な滞在許可」なので、難民ではなく「ゲスト」という扱いになり、「いつ政策が変わって、トルコに居住できなくなるか分からない」という不安を覚える人たちもいました。
またKimlikを取得するチャンスは一度きり。そのため、一度シリアに帰ってしまうと、またトルコに帰ってきてもKimlikを発行してもらえず、不法滞在になってしまうんだそうです。
政権崩壊後、トルコからシリアに帰った人たちは7000人くらいいるそうなのですが(シリア人NGO職員Eさんによると)、今帰ってる人は、「もうトルコに帰ってこない」という選択ができる立場にある人たちになる、と聞きました。
「トルコ市民権」を持っているトルコ在住のシリア人は、(数日前の時点では、トルコ政府がOKを出していないために)シリアに行くことができないようになっている、と伺いました。
(友人提供:シリア国境の街アッチャカレ。この向こう側にトルコからシリアに向かう国境がある)
トルコに住む友人Aさんは「家賃のために働いてるわ」という位に物価が高くなったり、働く機会がないことが少ないことを話していました。
資格を持っているシリア人も、避難民生活ではその資格を活かした仕事ができなかったり、労働許可が得られずに別の仕事についていくケースも多いです。
スウェーデンで難民認定を経て、国籍を得たパレスチナ系のシリア人の友人Fさんも、「仕事が少ないし、生活が厳しい」と話し、シリア行きの飛行機が運航したら、すぐにダマスカスに帰ると思うよ、と話していました。
なので、避難先での生活が難しい人たちにとっては、シリアに帰る選択は一つです。「たとえ、戦争中にシリアにあった家が壊され、家が無かったとしても、ここでも家を持つことができずに家賃を払ってるんだから同じだよ」と、帰る人たちの事情に詳しい難民支援NGOで働くシリア人Gさんが教えてくれました。
一方、2024年頃に聞いた時には、シリアの公務員の給与が35$でした。経済制裁やウクライナ戦争の影響で、物価も高騰している中で市民生活は困窮している中、生活の頼りになったのは、国外で仕事をする家族・親戚からの送金です。
実際に、Gさんはシリアに残る四家族分の生活費を工面していました。
帰ってすぐに仕事があるか分からない状態なので、他の家族を守るために、シリアに戻らない、ということも選択肢の一つになります。
(地震から1年近く経った際のアレッポの様子)
クルド系シリア人のHさんは「シリアには帰らないと思う」と話しました。(彼の場合は、家族がもうシリア以外の国に住んでいる、ということも理由の一つかもしれないです)。
「クルド人であることを理由に、差別されるかどうかが不安なんだ。ヨーロッパで、アサド政権が崩壊したことを喜ぶデモに参加したクルド人の友人が『クルド人は帰ってくるな』と言った、差別的な発言を受けたりもしてる。
HTSは少数派も受け入れると話しているけれど、元々は<スンニ派アラブ系>の組織だ。SNSを見ていても、スンニ派アラブ系以外のアイデンティティーを持つ人たちに対しての発言が、僕にとっては怖いと感じたんだ。
僕はシリアが一つになって欲しいって願う。クルド人の国を作ってほしいって思ってはいない。シリアの中に複数の国が乱立するような状況になってほしいとは思わない。ただ、権利が欲しいだけなんだ」
(参考)
・HTS指導者が「少数民族や宗教が混在するシリアにおける団結の必要性」を強調
https://www.afpbb.com/articles/-/3554422・新政府はすべての国民、すべての派閥によって構成される
https://mainichi.jp/articles/20241218/k00/00m/030/001000c・シリアで暫定憲法草案が発表され、イスラーム教を国教として明記
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/bbe1926bec2bbefd1559b6334bbc6774fd2fb07e
「一時的に帰るにせよ、2~3ヶ月くらいは様子を見ようと思うんだ」と話す友人たちは多くいます。
今はインフラも整っておらず、帰還した後の生活の見通しが立たないかもしれないですし、治安面もまだ心配だから、もう少し待ちたい、と。また、「新しい政府が、どんな形になっていくかはまだ分からないしね」ということを話す人もいます。
教育支援NGOのJさんは「子どもたちの学校の節目となる6月が、シリアに帰るタイミングだと考えてる人たちも多いと思う」と話していました。
なので、①〜④のためらう理由があったとしても、時期を見て帰還する人たちも出てくると思われます。
UNHCRは「2025年1月から6月までに最大100万人の難民が帰還する」と予測しています(UNHCR、2024年12月16日)。
(シリア人NGO職員Jさん提供:現在のアレッポの様子)
一人ひとりにシリアに帰るかどうかの事情や思いがあります。ただ、これからシリアへの帰還民が増えていくことは間違いないと思います。
私たちは、既存事業のプログラムを通して、シリア帰還民支援を続けるとともに、今回、緊急支援として「新しい国を作るシリアの人たちが希望を感じられるようなプロジェクト」を作っていきます!
どうかお力を貸してください!
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★12月18日(水)18時30分ごろ からスタート(約13分間)
https://www.nhk.jp/p/nradi/rs/X7R2P2PW5P/
★1週間「聴き逃し」があります。18日の放送終了後から 7日間、下記WEBサイトから視聴することができます。
https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=X7R2P2PW5P_01
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