アッサラーム・アライクム!Piece of Syriaの中野貴行です。今日は、現在挑戦中の「文化保護の活動」についてお伝えいたします。
■トルコの補習校で変化が起きています
シリアは2011年から続く戦争によって人口の54%が難民・国内避難民として、故郷を去っており、うち300万人以上がトルコに在住しています。トルコで使われている言語はトルコ語で、シリアで使われるアラビア語と文字さえも異なるため、シリアから避難してきた子どもたちがトルコの学校での授業についていけませんでした。
そこで、シリア人が多く住むトルコ南部の街ガズィアンティップで、トルコ語を学んだり、トルコ人との交流を行うために、補習校の運営を2021年から始めました。毎年200名の子どもたちが学び、トルコの学校に通えるようになるという成果を生み出してきました。
その補習校に、大きな変化が生まれています。
■「母国語」を話せない子どもたち
その変化とは、補習校ではアラビア語とシリアの文化を学ぶ授業が求められるようになったことです。
戦争から13年が経過し、トルコで生まれた子ども達が増えました。テレビや授業でもトルコ語に触れる機会がほとんどで、家庭以外でアラビア語に触れる機会がほぼありません。そのため、家族とアラビア語で会話はできても、体系的に学ぶ機会がないために、読み書きができない子どもたちも増えています。
さらに、そうした子ども達は、母国シリアに足を踏み入れたことがないために、シリアへの愛着を持つことは難しく、シリアで生まれ育った保護者や先生たちが危惧をしています。
と、同時に文化そのものも、戦争によって破壊・喪失が進んでいます。世界遺産のパルミラ遺跡の神殿の一部が、ISに破壊されたことに、私たちは大きなショックを受けました。
加えて、難民・国内避難民という形で、土地を離れているので、その土地で代々受け継がれてきた無形遺産、口承文化もまた、失われつつあります。例えば、シリアのマアルーラという村には、イエスキリストが話したアラム語を今も受け継ぐ人たちが住んでいたのですが、襲撃を受けて避難して、今も帰ってきていません。
戦争は「積み重ねてきた文化や歴史」も破壊していくのです。
(補習校でアラビア語を学ぶシリアの子どもたち)
■戦争は命だけでなく文化をも壊していく
「なぜ人類は戦争で文化破壊を繰り返すのか?」という本があります。
戦争では、敵対する勢力の心を挫くために、意図的に文化の集積地である図書館や学校、歴史的な建物を破壊するんだそうです。それにより、心の拠り所を奪い、その場所から去ってしまうように仕向けたり、復興したいという想いが湧きにくくする意図がある、と。
「戦争が文化破壊を起こす」のであれば、「文化を守り紡ぐことで平和の礎を築くことができる」のではないか?…と、それは言い過ぎかもしれません。ですが、自分の文化や歴史に誇りを持つことは、復興していく際に、大きな力になると思います。
戦争が続く中での支援は、医療・食糧・住居など、直接生命につながる分野に集中します。間違いなく、それは重要です。一方、文化保護は優先されにくく、さらに遺跡の破壊などのように被害が目に見えない無形遺産はさらに知られることなく、失われてしまいます。
(結婚式で演奏されている弦が1本の楽器)
■平和作りという答えのない課題への挑戦
シリアは内戦によって憎しみの連鎖が起こり、特定の地域からの支援を拒むといったことさえ起こっています。人類の宝でもある、シリアが育んできた文化を守る事業を通じて、共通の価値観を思い出してもらい、ともに平和を作っていくきっかけを生み出していきたいと願っています。
これは楽観的に見えるかもしれません。しかし、まだ答えのない「平和作り」のためにも、答えを探る挑戦の一つとして、私たちは日々、様々な協力者と議論を重ねながら模索しています。そして、この想いに共感するアカデミア、アーティスト、マーケッター、メディアの方々が、惜しみない協力をしてくださっています。以下に、この挑戦の具体的な活動を紹介します。
1つ目の活動は、シリア人のNGO・アーティストと協働で伝統的な歌や物語を残す活動です。避難生活の中で失われている文化をアーカイブとして残していくために、アカデミアやアーティストの方と相談しながら、シリア・日本の双方でできることを模索しています。
2つ目の活動は、保護した文化の教材化です。形のある遺跡についてはデジタルアーカイブを残す活動が行われています。上記の無形遺産に加えて、有形遺産も合わせる形で、世界に離散しているシリアの方々に文化を伝えられる教材の作成を進めていきます。
3つ目の活動は、上記の活動を展示する場を作ることです。シリアの魅力を伝え、シリアが「また行きたい国」になるために、日本国内で協力者の方と共に展示発表をする機会を作っていきます。
これらの活動は、シリアの持っている文化的な魅力が、戦争によって失われかねないなか、「人類の宝を、未来にアーカイブする」というとても大きな挑戦です。
これまで、「平和をつくる」は、たくさんの人々が長きにわたり挑戦し続けている、最難関の課題です。だからこそ、「文化を守り紡ぐことで平和の礎を築く」という新しいアプローチに挑戦をしていきます。
もちろん、シリアの子どもたちへの教育支援事業も継続・拡大していきます。
だからこそ、皆さまにお願いがあります。ぜひ、パートナー会員として私たちと一緒に、この挑戦を進める仲間になってください!