アッサラームアライクム。Piece of Syriaのへむりです。
● 母国語で学べない
● 病院に行きたい時は
についてお伝えさせていただきます。
前回のトルコ便り⑤でお伝えしたように、
トルコに住むシリア人のステータスには、
「来たばかりの人」「Kimlik」、そして「市民権」の3つがあります。
トルコに入国後、Kimlikという外国人登録証(Protection Card)を申請、取得すれば、
医療・教育などをトルコ人と同様に受けることができます。
(逆に言えば、Kimlikがなければ、受けることができません)
戦争が始まった後、トルコに逃げてきたシリア人の子ども達向けに
母国語のアラビア語で学ぶことができるシリア人学校がありました。
学校の校舎を午前と午後とで、シリア人とトルコ人の授業を分けて、
シリア人が母国語で学べる機会を作っていました。
しかし、数年前からトルコ政府は、
「トルコに住む以上は、トルコ語で学ぶべき」というスタンスを取り始めており、
学校は続々と閉鎖されていっています(今年中には完全になくなる、と言う話を聞いています)
国際NGOによるシリア難民の教育支援も、数年前から禁止になりました。
語学力がネックになって、授業についていけない子どももいますし、
Kimlikがないことで、学校に通えていない子どももいます。
結果、学校に行けないまま高学年の年齢になってしまった子どもがいて、
学力的に合う低学年のクラスへの編入を断られる、ということも起きています。
さらには、トルコ人からのいじめが問題になっている、という話も聞いています。
シリア人とトルコ人の、それぞれの子ども達が打ち解け合えるような場所を作れるよう、
活動しているNGOがあり(日本のNGOであれば、認定NPO法人 AARなど)
Piece of Syriaも、現地パートナーが関わっている補習校に、少しですが支援できればと思っています。
病院に行くにも、やはりKimlikは必要となります。
ただ、学校とは違い、シリア人医師のいる病院は閉鎖の心配はないそうです。
医師のレベルは、トルコ人よりシリア人の方が上だ、というのがシリア人の感想です。
(実際、UAEやサウジアラビアなど湾岸諸国でも、シリア人医師が活躍しています)
【夢】ユペチカ 『サトコとナダ』 https://t.co/jPXoy0R5FL #ツイ4 pic.twitter.com/XeDLHLkis3
— ツイ4 (@twi_yon) May 19, 2017
「対応が悪い。ろくに診察もせずに薬だけ渡してくる」と、
シリア人から「トルコ人医師は信用できない」という意見が聞こえてきます。
トルコ人でさえ、シリア人医師の病院に行きたいという人がいるほど。
トルコ人の病院には行けるものの、シリア人にとっては語学の問題もあって
(通訳のサポートがあるとは言うものの、不十分だそう)
結果、シリア人の病院に人気が集中しています。
すると、すごく混んでしまうので、なかなか診察してもらえない、と。
また、シリア人医師が働けるのは、トルコの政府の病院に限られており
自分で起業してクリニックを持つことはできないそうです。
シリア人の歯科医は、政府の病院でも働くことはできず、
医師も歯科医も、ヤミでやっている人たちもいるんだそうです。
戦争前のシリアは、就学率97%。大学まで無料。
商店街で小学生に、おじさん達のアラビア語を英語通訳してもらったこともあります。
(2005年に、バックパッカーで中東を旅していた時なので、僕もアラビア語が話せなかった)
小さな村にも小学校はあり、進学塾があることも。
学校の空いていない夜の時間を使って女性達向けの識字教室が行われていました。
(村で学びたい人が15人いれば、政府が先生にお金を出して開講できる)
大学は公立の方がレベルが高いと言われており、特に医学部はあまりに難しいので
自分の子どもを医学部に行かせたいお金持ちは旧ソ連やロシアで、医学部に入ることが多くあったように思います。
ともあれ、教育を受けるというのは「当たり前」のことだったのです。
<シリアの学校>
公立の病院や保健センターでは、無料でワクチン接種や治療を受けることができます。
薬は別途、処方箋を持って薬局で買うことになりますが、現地の物価に即した値段でした。
(薬を輸入に頼り、非常に高価な薬しか手に入らない国もあります)
ただ、有料の私立クリニックの方が「質が良い」とは言われます。
ともあれ、医療を受けるということも「当たり前」のことでした。
<シリアの病院>
町中でホームレスやストリートチルドレンを見ることはなく、
ご近所同士の助け合いも多く見られ、「出稼ぎ」という選択肢を含めると生活に困る人は少なく、
原油価格の影響による物価があがった時も、灯油やパンの配給や、公務員の給与を増やす政府の対応がありました。
「発言の自由」や「分配の不平等」についての不満は存在していましたが、
「治安」や「最低限以上の生活の保証」はありました。
昼の2時には仕事が終わり、夫の給料だけで子ども8人を学校に行かせられる余裕と「家族の時間」がありました。
そうしたシリアの「当たり前」を知ったとき、
今のシリアの人たちの状況が、より身近に、より深刻さを持って感じられるのではないでしょうか?
<補足>
Piece of Syriaは、団体として、政府支持や反政府支持など、政治的な主張を訴える活動を主にしておらず、
あくまで中立的な立場で活動するように心がけております。
捉え方次第では、今回の文章が「政府擁護だ」「民主化デモは間違っていたと言いたいのか」と
感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような意図はなく、
お伝えしたいのは、「戦争によるシリアの人たちの生活の変化」という点です。
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